6月7日、日本科学未来館にて開催された慶應義塾大学の学生有志によるイベント「TEDxKeioU」。
今年のコンセプトに掲げられたのは「間(ま)」──。
「タイパ」が重視され誰もが生き急ぐ現代において、ただ前へ進むのではなく、一度立ち止まって思考する「余白」を持つこと。本イベントは、現代人が見失った「間」を取り戻すための時間として企画されました。
当日は、6名のスピーカーによるトークが展開されたほか、和楽器によるパフォーマンス、参加者同士で対話を深めるワークショップが実施されました。さらに、スピーカーも交えて語り合うアフターパーティーや、厳選された酒食とともに深い対話を育むセカンドグラスなど、独自のプログラムを通して新たな視点や気づきが共有されました。
総勢74名のメンバーで緻密に創り上げられた圧倒的な没入空間は、どのようにして生まれたのでしょうか。本イベントを主催したTEDxKeioU実行委員会の代表である、後藤大翔さんにインタビューを実施し、今回のイベントにかける想いを伺いました。

今回のコンセプトを「間(ま)」に設定された背景や、そこに込められた思いを教えてください。
私たちの団体には、根底に「思考停止からの脱却」というブレない共通認識があります。その上で、今回はどのような切り口でメッセージを届けるべきかを考えました。
現代の大学生は「学生のうちにこれをやっておくべきだ」といった社会の常識や、「大学生っぽいこと」にどうしても囚われがちです。例えば、留学やインターンといったチャレンジ自体は決して否定しませんし、素晴らしいことです。
しかし、いきなり「学校以外の場所」や「日本以外の国」に目を向ける前に、一旦立ち止まって「本当に自分のやりたいことって何だろう?」「自分が興味のあることって何なんだろう?」と深く考える時間や空間——つまり「間(ま)」を取る必要があるのではないか。それが、世界をもっと面白く生きるための第一歩になるのではないかという思いがありました。 普段からそういった問いに向き合っているメンバーが多いからこそ、この「間」というコンセプトに自然と行き着いたのだと思います。

登壇者のセレクトや、3つに分かれたセッションの構成など、全体のストーリーメイキングにおいて意識したことは何ですか?
大きく2つの視点から、過去のイベント以上に強くこだわって構成しました。
1つ目は、担当メンバーの「熱意」です。いくらコンセプトに合っていても、まずは担当者自身がそのスピーカーの持つアイデアに惚れ込み、「この人の話が好きだ、興味を持てる」と心から思えるかが最も重要です。その熱意がベースにあって初めて、魅力的なトークを作り上げることができます。
2つ目は、「コンセプトの一貫性」と「文脈の設計」です。今回はセッションを3つに分けましたが、「間」というコンセプトを掲げている以上、「これは何と何の『間』の話なのか」という順番や繋がりを非常に意識しました。個別のアイデアの面白さと、イベント全体を通してのストーリーライン、この両輪が機能するように緻密に組み上げています。

トークだけでなく、会場の空間設計や場面転換の演出など、細部に至るまでの高い完成度に圧倒されました。各部門のこだわりについてはいかがですか?
先ほど「思考停止からの脱却」と言いましたが、これって口で言うのは簡単で美しく聞こえる反面、実はすごく辛くて、きついテーマなんです。人間、本当はみんな楽な方に流れたいし、何も考えずに感覚的にパッと思いついたことをやっている方が楽ですからね。
それでも「思考し続けること」や「対話を重ねること」の価値を参加者と共有するには、ステージからのインプットだけでは絶対に足りません。だからこそ、空間の演出を見て何かを感じ取ってもらったり、ワークショップを通して自分の中のものを発散してもらったりと、多角的なアプローチが必要不可欠でした。 空間の網の目を細かく設計し、参加者の中で思考の刺激が密に伝播していくような体験を作ること。それが結果的に、トークのインパクトをより引き立たせる強力な相乗効果を生み出せたと思っています。

「今回のチームだからこそ出せた色」や工夫されたポイントはありますか?
今回は広報戦略を抜本的に見直し、大幅に強化しました。クリエイティブのビジュアルはもちろん、コピーなどの文言も含めて一新しています。
その最大の理由は、「TEDxKeioUの体験は、イベント当日だけのものではない」と定義したからです。参加者が私たちの発信を見た瞬間からすでに体験は始まっており、事後もずっと続いていくものだという意識をメンバー全員で持ちました。
だからこそ、「参加者が会場に来る前に、どんなイメージを抱いているか」を緻密に設計したかったんです。事前に抱いてもらったイメージに対して、当日その期待通りにしっかり価値を届けることも大事ですし、逆に良い意味で「期待を裏切る」こともひとつの大きな体験価値になり得ます。 単なる「告知」ではなく、参加者の感情を動かす体験の入り口として、「どう見えているか、どう見られているか」に対する意識は今回かなり強かったと思います。

74名という大規模な組織をまとめ上げる中で、代表として苦労した点や、メンバーとのコミュニケーションで意識したことはありますか?
うちの団体は「考え続ける」メンバーが多いので、突き詰めた結果、議論が袋小路に入ってしまい、いつまでも収斂しない時があるんです。ストイックなのは素晴らしいことですが、イベントを成立させるにはどこかで「割り切り」が必要です。代表として、そのタイミングやバランスを見極めるのは非常に難しかったですね。
コミュニケーション面で言えば、「バラバラで違うのが当たり前」という前提に立っていました。何かしらのステレオタイプや偏見があったとしても、まずはイメージをぶつけ合ってみる。限界まで完全に理解し合おうと無理をするのではなく、「違うイメージを持ったまま、心地よく共存できる」ようなベースづくりを意識していました。オンラインでもオフラインでも、意見を言いやすい心理的安全性を保つことが、この規模の組織では重要だと感じています。
8月からの約1年間、走り抜けてみて一番楽しかったことや、団体として得られた大きな気づきは何ですか?
先ほどの「バラバラでいい」という話にも繋がるのですが、準備が佳境に入った頃から、ミーティングの中で「それも『間』だよね」という会話がすごく増えたんです。
世の中には絶対的に間違っていることもあるかもしれませんが、「すべてが不正解なわけではなく、今はただ『間』が合っていないだけ」という視点を持てるようになりました。「間が違っている」だけだから「間違い」は絶対的な不正解ではない。意見の食い違いや間違いそのものをネガティブに捉えるのではなく、一歩引いて俯瞰し、面白がれるような空気感が団体内に芽生えた瞬間がありました。そこからは議論がすごく楽しくなりましたね。
終わってみて今の心境としては、意外とあっという間で、どこか「あっけらかん」としています。燃え尽きたというよりは、「腹八分目で、まだ行けたかも」という余力が少し残っている感覚です。でも、それくらいの「余白」がある方が、組織としては健康的でちょうどいいのかもしれません(笑)

最後に、TEDxKeioUとしての今後の展望を教えてください。
まずは、現役の塾生および塾員に対しての認知をさらに広げていきたいです。「慶應という歴史あるコミュニティにいるなら、絶対に1回は行っておいた方がいいよね」と塾生が思えるような、独自の知的な体験ができる場であり続けたいです。
イベントの影響力を拡大させながらも、中身の質をより濃くしていくという一番難しい道に、これからも突き進んでいきます。そして、年に一度のオフラインイベントの日だけにとどまらず、慶應のコミュニティに蓄積されている豊かな「アイデア」や「知」に常に触れられる、ひとつの大きな触媒・媒介であり続けたいと願っています。
TEDxKeioUについて
TEDxKeioUは、慶應義塾大学の学生有志により企画・運営されるTEDxイベント。 慶應義塾の伝統である「半学半教」の精神を体現し、学生主体の枠を超えた圧倒的な空間設計と質の高いアイデアの共有を通じて、塾生・塾員に対して新たな気づきと知的な体験を提供するコミュニティの場を創出している。
今回のイベントは「間(ま)」をコンセプトに掲げ、「思考停止からの脱却」をテーマに3つのセッションを展開。独立研究者の山口周氏や茶道家の保科眞智子氏など計6名が登壇し、多くの参加者がオフラインならではの熱気と対話の場を共有した。
▼「TEDxKeioU 2026」公式サイト
https://tedxkeiou.com/conferences/2026
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